うちのお寺は曹洞宗。と知ったのは、大好きな祖父の葬儀のときでした。自分の菩提寺の宗派など、それまでは、まったく興味の無い事柄でした。
なぜか、坐禅だけはしていましたが。
しかし、お葬式や法要など、いざとなると大事なのが、先祖代々から長きに続く菩提寺とのお付き合いです。
核家族が進む現代、うちのお寺は「何宗」なんて知らない人が多くなってきました。今直ぐには必要が無いかもしれませんが、お盆のお参りなどに来られる菩提寺のご住職に、恥を忍んで一度尋ねてみましょう。そのとき少しでも基礎知識を頭の片隅に入れておくことが大切かと思います。
そこで、うちのお寺、曹洞宗の基礎知識を調べてみました。
○禅宗とは?
坐禅を修行の根本として悟りを目指す仏教宗派を総称して「禅宗」と呼びます。
そして禅宗は、曹洞宗のほかに、臨済宗、黄檗宗の3宗派に分かれます。
禅宗と他宗との違いを簡単に言うと、まず、禅宗の特徴は、とにかく「坐禅」を重視することです。なぜならお釈迦さまは、菩提樹の下で坐禅を組んで瞑想しているときに悟りを得たからです。
禅宗の本尊を強いて言うなら釈迦牟尼仏(釈迦如来、お釈迦さま)ですが、本尊に強いこだわりはなく、さまざまな仏さまをまつります。
また、禅宗では、経典をよりどころとしません。しかし、悟りを論証するものとして、さまざまな経典を読みます。
○曹洞宗と、臨済宗、黄檗宗の違い
禅宗は、お釈迦さまから28代目の菩提達磨を始祖としています。達磨は5世紀末、インドから中国に渡り、嵩山少林寺で石窟の壁に向かって坐禅を9年間続けたといわれます。
8世紀の唐の時代、中国禅宗は曹洞宗や臨済宗など分派して発展しました。その後、宋の時代に中国に渡った日本の僧侶、栄西禅師や道元禅師によって日本に禅宗が伝えられました。
日本における禅宗はいずれも中国禅宗の流れをくみ、曹洞宗のほかに臨済宗、黄檗宗があります。3宗派とも、坐禅を修行の根本として悟りを目指し、作務(掃除などの日常作業)を尊ぶことは共通していますが、修行法や作法に違いがあります。
嘉禄3年に道元禅師が伝えた曹洞宗は「坐禅こそが仏の姿である」として、ただ黙々と坐ることから「黙照禅(もくしょうぜん)」といわれます。
坐禅は悟りに達する手段ではなく、お釈迦さまに憧れてただひたすらに坐禅することがすべてであるということです。
曹洞宗は、鎌倉時代に台頭してきた武士を中心に、質実剛健の武家文化としてひろまりました。
臨済宗は、道元禅師が師ともされる栄西禅師が建久2年に伝え、栄西禅師没後、鎌倉・室町時代にかけて幕府執権や京都の貴族を中心に公家文化としてひろまりました。
臨済宗は、坐禅を悟りに達する手段と考え、坐禅をしながら「公案」とよばれる教育課題を手がかりとして悟りの境地を目指します。
黄檗宗は江戸時代初期に中国僧の隠元が伝えた宗派で、浄土思想と融合した明時代の中国臨済宗の流れをくんでいます。
厳しい戒律でしられ、当時停滞していた日本の禅宗に新風を吹き込みました
建物や仏具、そしてお経の節回しも中国風で、普茶料理も伝えています。
○曹洞宗の宗祖
曹洞宗では「両祖」として、道元禅師と螢山(けいざん)禅師の二人を立てます。
道元禅師は鎌倉時代前期に中国へ渡り、中国曹洞宗の高僧如浄に師事し、禅を極めて帰国。ひたすら坐禅に打ち込む純粋禅を提唱し、京都・深草に日本初の禅の専修道場として興聖寺を開き、その後、越前に移り、永平寺を開きました。
螢山禅師は道元禅師からかぞえて曹洞宗第4祖にあたり、能登半島に永光寺や總持寺を開き、北陸を中心に多くの優秀な弟子を育てました。螢山禅師の弟子たちは全国に曹洞宗のお寺をつくり今日の大教団の礎を築きました。
日本に曹洞宗の教えを伝え、体系づけた道元禅師を高祖(こうそ)、大教団の礎を築いた螢山禅師を太祖(たいそ)と呼んでいます。
○曹洞宗の本尊
曹洞宗では、菩提樹の下で坐禅をして悟りを得たお釈迦さまの瞑想体験を宗派の思想の原点としています。
そのため、本尊にこだわりはありません。しかし基本的には、釈迦牟尼仏を本尊としています。
大本山永平寺の仏殿には、釈迦牟尼仏を中心に阿弥陀仏と弥勒仏(弥勒菩薩)を配置した、現在・過去・未来の三世仏がまつられ、大本山總持寺の仏殿には、釈迦牟尼仏を中心に弟子の摩訶迦葉と阿難陀を配置した釈迦三尊がまつられています。
曹洞宗では、釈迦牟尼仏以外の仏像を本尊にしているお寺も多数あります。
それは、全国に広まる過程で、他宗の寺院を曹洞宗に改宗したときに、そのお寺にまつられる仏像をそのまま本尊として残したからです。
また、両祖である道元禅師と螢山禅師を敬愛し、家庭の仏壇には、「一仏両祖」の絵像(釈迦牟尼仏を中心に道元禅師と螢山禅師の姿が描かれたもの)をまつります。
○曹洞宗がよりどころとするお経
曹洞宗では特定のお経をよりどころとしません。
禅宗には「不立文字」という言葉があり「悟りの境地を言葉や文字で伝えることは不可能である」という意味です。
ですから、理論に縛られず、ひたすら坐禅をすることによって、自ら悟りを体得することが重要であるということです。
しかし、曹洞宗では経典類を重視しないわけではなく、さまざまな経典を読みますし、道元禅師禅師や螢山禅師禅師の語録や著作も多く残されています。
禅宗でよく読まれるのは「般若心経」や「観音経」などです。そして曹洞宗独自のお経といえば、道元禅師の主著「正法眼蔵」をもとに編纂された「修証義」で、日常のおつとめをはじめとしてよく読まれます。
○曹洞宗の本山
深山幽谷の地に建つ「日本曹洞第一道場」
大本山 永平寺(福井県吉田郡永平寺町志比)
いつでも参詣できる開かれた禅苑
大本山 總持寺(神奈川県横浜市鶴見区鶴見)
○家庭でできる坐禅入門
■坐禅の準備
心を落ち着けて坐るには、心身ともに健康であることが大切です。睡眠不足や満腹:空腹のときは避けましょう。ゆったりとした服装で、時計やネックレスなどの装飾品ははずして、素足になります。
坐禅する場所は、静かで落ち着けるところを選びます。坐蒲団を二つに折ってお尻の下にくるように置きます。あるいは、座蒲団を2枚用意し、坐る場所に1枚敷いてもいいでしょう。
坐る時間の長さは自由です。お寺では一般的に30分程度ですが、家庭で坐る場合は、10~15分からはじめてもかまいません。タイマーをかけておくと集中できます。時間は短くても毎日続けることが大切です。
坐禅の一連の流れ
1.坐る前にまず、坐る場所に向かって立ち、合掌したまま頭を下げる。
2.坐禅の姿勢で足を組む
3.坐禅を終えるときは、静かに合掌して体を左右にゆすってから足をとく。
4.ゆっくりと立ち上がり、最初と同様に立拝をして終わる
足がしびれて立てないときは、しびれがとれるまでしばらく坐っていてもかまいません。
■坐禅の姿勢をつくる
禅は第一に「調身」(正しい坐り方)が大切です。
あぐらの状態で、二つ折りにした座蒲団の前半分ぐらいに浅くお尻をのせると自然に背筋が伸びます。
足の組み方は「結跏趺坐」と「半跏趺坐」があります。
お釈迦さまが悟りを開いたときに結跏趺坐だったことから、この坐り方が正式ですが、慣れない人は半跏趺坐でもかまいません。
足を組んだら、腰を前に突き出すようにし、同時に背筋を伸ばし、あごを引きます。そして頭頂が天井から引っ張られているように意識します。
手の組み方は「法界定印」です。組んだ手は、組んだ足の上に置き、わきを軽く開けます。口は、奥歯を軽くかみ合わせ、唇を一文字に引き締めます。舌は上の歯ぐきの付け根あたりにつけます。
目は半眼といって、上まぶたを半分閉じて、視線を1メートル先に落とします。一点を見つめずに、眉間の力を抜くようにします。
ここまできたら合掌し、よい坐禅であるように念じます。
そして一度、深呼吸して、口を軽く開けて深く息を吸い込み、下腹からゆっくりと吐き出します。これを「欠気一息」といいます。
次に状態を左右にゆっくりと動かして腰の筋肉を伸ばす運動をします。これを「左右揺振」といって、大きな揺れからだんだん小さくしていき、真ん中で止めます。
組んだ足が土台となり、そこに腰、胴体、頭がのっているという状態を実現できれば正しい坐り方になっています。手を法界定印に戻し、調身が完成します。
■呼吸は複式呼吸
調身ができれば次は「調息」(呼吸を整える)です。
座禅中の呼吸の基本は「鼻からゆっくりと吐いて吸うこと」と「丹田(おへその下の体の中心部)に意識を集中させること」です。そのため、調身ができていることが大切です。肩に力が入ると浅い呼吸になってしまします。
まず、鼻から静かにゆっくりと息を吐きだします。そして吐ききったら、腹筋をゆるめ自然に下腹をふくらませ、短く吸います。一呼吸15~20秒前後の長く深い呼吸が理想ですが、息が短いときは短いにまかせ、だんだん調えていきます。
呼吸に合わせて下腹がリズムよくゆったりと動いていれば、調息が正しくできています。
■心は自然に調うもの
「調心」、心を調えるコツは「何も考えないこと」です。
丹田に意識を集中していくと、自然に雑念が取り払われ「無我」の状態がやってきます。調身と調息を正しく行えていれば、調心は自然にできるものです。
ただし、「無我」の状態を坐禅開始から終了までずっと続けることは難しいです。座禅中に雑念が生じるのは、丹田への集中がおろそかになっているからです。その場合には「数息観」といって、一呼吸ごとに「ひと~つ、ふた~つ・・・」と頭の中で数えて精神統一します。
道元禅師は「普勧坐禅儀」で「雑念が生じたならば、これではいけないと思い、目を覚ませ」と述べています。つまり一度姿勢を正し、丹田に意識を集中させるのです。螢山禅師は、ゆっくり歩いたり、目を洗ったり、工夫するようにと述べています。
坐禅の作法が難しいと思ったら、お寺などで行っている坐禅会に参加して直接指導を受けるのが良いでしょう。
○仏壇と本尊
仏壇には、亡くなった家族の位牌を安置しますが、原則として本尊が主であっり、位牌はあくまでも従という関係です。
曹洞宗では、家庭の仏壇の本尊として「一仏両祖」の絵像(掛軸)をまつることをすすめています。
これは、釈迦牟尼仏を中心として、向かって右に道元禅師、左に螢山禅師が描かれたものです。
すでに、木像や銅像の釈迦牟尼仏をまつっている場合は、その後ろに掛けます。
一仏両祖は菩提寺を通して求めることができます。
曹洞宗では仏壇の安置する場所については特別な決まりはありません。
一般的にお寺は南向きに建てられている場合が多いので、これにならうのが良いとされますが、特にこだわる必要はありません。
静かで落ち着いた場所、神棚と向かい合わせにならないようにする、毎日手を合わせることを考えた高さなどの点を注意すればよいでしょう。
○仏具と供物
仏壇はさまざまな仏具や供物で飾られます。これを「荘厳」といいます。
伝統的な3段の仏壇では、上段中央に本尊をまつります。その左右に位牌を安置します。位牌は、古い位牌を向かって右に、新しいものを左に安置します。過去帳があれば、中段の中央に置きます。
中段には基本的に供物をそなえます。供物の基本は仏餉(ぶっしょう・ご飯)と茶湯す。仏飯器にご飯をよそって中央向かって右に、茶湯器にお茶やお水を入れて左にそなえます。その両脇に菓子や果物などを高坏にのせてそなえます。また、命日などには精進料理の霊供膳をそなえます。
下段には、基本の仏具である「三具足」を配置します。ロウソクを立てる燭台、線香や抹香を焚く香炉、花を立てる華瓶が三具足です。
三具足は香炉を中心に右に燭台、左に華瓶を置きます。
仏壇の前に経机を置き、数珠、経本、リン、線香立てなどを置きます。そして木魚があれば、経机の右下に置きます。
住まいの事情で仏壇を置くことができない場合は、低い棚の上などに本尊と三具足を置くだけで立派な仏壇といえます。
○合掌礼拝の作法
曹洞宗の合掌は、両方の手のひらをぴったりとつけて、両肘をやや張り、中指の先が鼻の高さにくるようにします。
礼拝は、背筋を伸ばし、あごを引いくことで姿も美しくなり、気持ちが引き締まります。
座って合掌したまま45度の角度で上体を倒します。これを「座拝」といいます。正座が基本ですが、イスの場合も同様に行います。
立ったまま合掌礼拝するときは「立拝」といい、合掌したまま45度の角度で上体を倒します。
法要では始めと終わりに、僧侶のリンの音に合わせて全員で3回続けて礼拝します。これを「普同三拝」といいます。
○数珠(念珠)の作法
数珠は宗派によって異なり、曹洞宗の正式な数珠は「ダルマ」と呼ばれる金属製の小さな環が通してあるのが特徴です。
ダルマとは梵語で仏法を意味し、お釈迦さまが説法することを「転法輪」と呼ぶところから来ています。
数珠の珠の一つひとつが人間の持つ煩悩を表し、108珠が正式で「本連」と呼ばれ、一般の人用として、半分の54珠、その半分の27珠などが普及しています。
長いものは二環にし、短いものはそのまま一環で用います。基本的な作法は同じです。男性用、女性用は房の形が異なります。
○曹洞宗の焼香
曹洞宗の焼香の回数は2回が一般的です。
1回目は「主香」といい、抹香をつまんで額の高さまで上げて押しいただき、故人の冥福を祈って香炉に入れます。2回目は「従香」といい、主香が消えないよいうに抹香を補う意味なので、額に押しいただかずに香炉に入れます。
また、日常のおつとめでは、線香は1本だけ立てるのが一般的です。
(出典:うちのお寺は真言宗/双葉社)
いかがでしょうか。曹洞宗の一般的な基礎知識です。
同じ「曹洞宗」であっても曹洞宗各派や地方・地域によっては若干違う部分はあると思います。
その場合は、お近くの菩提寺にご確認ください。